「富士日記 (中)」より
Aggiornato il: 9 gen 2019
すっかり春めいてきた今日。
冬からずっと読んでいた小説
「富士日記」武田百合子著
武田泰淳夫妻が、富士の裾野、どころか
富士山の結構登った場所に別荘を持ち、
そこで過ごす時間を妻の百合子さんが描いている本作。
何を食べたか、とか誰それさんの話、など
本当にプライベートな日記そのものなんだけど
読んでいるとホッとするし、
昔の山の暮らしにちょっと憧れます。
そんな中で見つけたこの話がすごく心に残った。
「昭和四十二年七月
新聞の古いのを見ていたら、こんな記事があった。地元向けのテレビ放送では、ときどき<農薬を飛行機から散布するから、養蜂家は気をつけるように>とか<どことかの養蜂が大量全滅した>とかいってることがあるので、ここに写しておく。
五月二十八日附毎日新聞、投書欄より。
ミツバチがやってたら…作家大江賢治 61
大都会でミツバチの群れがきて殺虫剤で退治したというニュースのたびごと、ベトナムと同様、人間の無知さに心が寒くなります。いまは花どき、全国の養蜂家たちが春はじめ鹿児島から、花を追って北海道までトラックで移動して、聖書にもあるとおり、流れるミツを集めています。
花どきの今の季節がかき入れどきで、わずか三週間しか生きていない働きバチは、一つの箱から分封します。前の女王バチが新しい女王バチに王座をゆずり、別天地を求めているのです。
この時期のミツバチは刺しません。体にとまっても大丈夫。あわてて手で払ったりしない限り、飼い主の人間を恋い慕っているのです。球型(女王バチを護衛して丸くなる)になったら、警察に届け、警官もあわてずに噴霧器で羽根をぬらし、袋で押えて保管して、近隣の養蜂家に渡してください。一群二万、一匹で千五百の花をまわって、やっと米粒ほどのミツを集めるのです。 (東京都中野区江古田)」
